身延山ローカルガストロノミーツアー④

食文化研究家長内あや愛とともに学ぶローカルガストロノミー食育

2022年10月22日、23日の1泊2日ツアー

【身延山ローカルガストロノミーツアー④】食文化研究家長内あや愛とともに学ぶローカルガストロノミー食育

山々に囲まれ豊かな自然に恵まれている身延山周辺地域には、ここでしか栽培できない大粒で甘みの強い「あけぼの大豆」という特産品があります。

今回のツアーのメインは食文化研究家の長内あや愛氏による、「あけぼの大豆」を通して食の未来を考える食育の講演。ちょうど「あけぼの大豆」の枝豆がとれる旬の時期のため、講演の前には畑での収穫と試食の体験もありました。

身延山ローカルガストロノミーツアーでは食体験をメインとして、背景にある農業の営みや地域の伝統、文化など身延山周辺をさまざまな視点から楽しんで学べるプログラムとなっています。ここでは今回のツアーの内容を紹介するので、ぜひ参考にしてみてください!

第4回身延山ローカルガストロノミーツアーの概要

今回は食文化研究家の長内氏による食育講演会のほか、旬の「あけぼの大豆」の枝豆収穫体験などを盛り込んだ1泊2日のツアー。1日目、2日目のツアーの概要を紹介します。

ツアー1日目

オリエンテーション@迎賓館えびす屋
農園「クレアシオンファーム」@身延町内
宿にチェックイン@覚林坊/岸之坊/窪之坊/迎賓館えびす屋
農作物セミナー@覚林坊
長内あや愛氏の講演@覚林坊
雅楽の演奏@覚林坊
夕食(湯葉料理)&ジャズの演奏第1部@覚林坊
お祭り体験@覚林坊
ジャズの演奏第2部@覚林坊 桜寺栖

1日目はオリエンテーションの後、身延町特産「あけぼの大豆」の産地である曙(あけぼの)地区へ移動し、畑で旬の枝豆を収穫してその場でゆでて試食する食農体験。その後各自宿泊する宿へ移動しチェックインをすませたら、覚林坊へ集まり次は講演タイムへ。枝豆の食べ比べをしながら生産者による農作物のお話のあと、食文化研究家の長内氏による食育講演が行われました。

講演が終わったら夕食へ。雅楽やジャズの生演奏を聴きながら、湯葉をメインにした精進料理を堪能していただきました。夕食後は日蓮宗のお祭り体験のパフォーマンスやジャズの生演奏もあり、1日目は終了しました。

ツアー2日目

鐘つき見学と朝の勤行体験@久遠寺本堂
ヨガ体験@覚林坊/迎賓館えびす屋
朝食@覚林坊/岸之坊/窪之坊/農カフェZencho
チェックアウト
身延山ガイドツアー@久遠寺周辺
和紙漉き体験@西嶋和紙の里(身延町内)
解散

2日目は早朝5時前に久遠寺境内へ。朝の鐘つきを見学したのち、豪華絢爛なお堂のなかで僧侶の方々による読経と太鼓が響く、朝の勤行を体験。終わった後は、親子で楽しめるヨガで気持ち良く体をのばし、朝食へ。その後、各自身支度をしてチェックアウトのあと、身延を楽しむ体験へと続きました。まずは、御廟所や御草庵跡など久遠寺周辺の主要なスポットをお上人の解説を聞きながら散策し、その後身延町内の和紙の産地へ移動。最後は和紙漉き体験で、ツアーは終了しました。

今回は親子で参加した方々も多く、ワイワイとにぎやかな雰囲気でした。畑での収穫体験や講演、夕食時の生演奏など盛りだくさんなツアーとなりました。

旬の「あけぼの大豆」の枝豆を収穫して味わう食農体験

「あけぼの大豆」の枝豆の旬のタイミングに行われた今回のツアーでは、畑での収穫と試食の食農体験をしていただきました。ここからはその様子を紹介します。

「あけぼの大豆」とは

身延町の特産品の「あけぼの大豆」は、通常の大豆と比べて1.5倍ほど大きく、10%ほど糖度が高いのが特徴。江戸時代に関西から持ちこまれたのが起源といわれていて、身延町の曙(あけぼの)地区で代々種が受け継がれ、この土地固有の大豆となっていきました。

大豆を若いうちに収穫したものが枝豆で、「あけぼの大豆」の収穫時期は枝豆が10月頃、大豆は12月頃です。この枝豆収穫は1年のうちの限られた時期にしかできないとのこと。旬の時期だけの特別な体験を今回は楽しんでいただきました。

「あけぼの大豆」の食農体験

畑では「あけぼの大豆」の枝豆を収穫して、青空の下で採れたてをゆでて試食する体験を行いました。畑は小川貴志氏が運営する「クレアシオンファーム」。ここでは、自然栽培に近い形で農薬や化学肥料をできるだけ使わない栽培を目指しています。

自然界の競争に負けないようにと作物自身が力強く育っているためか、「あけぼの大豆」だからか、収穫した枝豆を生のままで食べても甘みと旨みがしっかりと感じられ、試食した参加者の方々からは驚きの声が上がっていました。また、殺虫剤もほとんど使われていない畑には、カエルやバッタなど自然の生き物もちらほら見られ、子どもたちが追いかける姿も。

収穫後は地域のおばちゃんたちの温かいおもてなしで、釜でゆでた採れたての枝豆を試食しました。枝豆は収穫直後から時間が経つにつれて甘みが減っていくため、採れたてが最もおいしいタイミング。子どもも大人も、ほくほくとした顔で食べていたのが印象的でした。

「あけぼの大豆」の枝豆自体は、全国どこからでも購入できますが、採れたてをその場で食べるという体験は旬の限られた時期に身延町でしかできないこと。シンプルながら一番おいしい状態で枝豆を試食できるのは、お金に換えられない貴重な体験かもしれません。

食の未来を救う「ローカルガストロノミー」のお話

「あけぼの大豆」の食農体験後、覚林坊へ移動し食文化研究家の長内氏の講演がスタート。ここでは畑での楽しい体験からさらに一歩進んで、私たちをとりまく食の未来について考える時間となりました。どのような内容だったのか、講演の内容を紹介します。

講師:長内あや愛氏|食文化研究家

長内あや愛氏は、江戸時代終わりから明治時代にかけての食の歴史や文化を研究されている食文化研究家。専門にされている時代は日本の食の大転換期にあたり、鎖国の終わりとともに西洋の食文化が日本に急速に流入したり、初めて「家庭料理」という概念が国内で生まれたりした時代です。当時の料理本や古書などを読み解いての研究やレシピを実際に再現するなどされています。

また、かつての五街道の起点で全国の食材が集まる食の聖地としての歴史もある東京・日本橋では、「食の會日本橋」という飲食店も経営。ここで提供しているのは、食文化研究で実際に再現した復刻メニューで、明治時代のレシピで作ったアイスクリームやカレーライスなどです。食のストーリーも一緒に伝えることで、より食事をおいしく味わってもらうということをコンセプトにしています。

長内氏の活動は多岐にわたり、吉本興業の文化部に所属し情報コメンテーターなどを務めるなど、精力的に食文化研究の発信もされています。納豆菌由来の新食材の研究開発もされるなど、食問題に対する生産面での解決にも取り組み中です。

長内あや愛氏

1996年生まれ。株式会社食の会代表取締役、食の會日本橋オーナー、食文化研究家、慶応大学SFC研究所上席研究所員。調理師・製菓衛生師・唎酒(ききさけ)師。吉本興業の文化部に所属。

14歳からAmebaオフィシャルブログ「14歳のパティシエは今食文化研究家」を現在まで毎日10年以上更新中。大学在学中に食の会を起業。

修士課程に進学し研究を行いながら、復刻再現料理の食事製作、提供の場として2019年8月に日本橋に「食の會日本橋」をオープン。世界経済フォーラムダボス会議U30起業家コンテスト最優秀賞。

日本酒造中央組合 全国一斉日本酒で乾杯登壇、クックパッド主催フードロスイベントcreative cooking battle youth実況・司会 なども務める。

「あけぼの大豆」の食農体験から豊かな食を考える

講演の前半は、長内氏の研究内容である明治時代の食文化や復刻レシピなどの紹介がありました。後半は、畑での「あけぼの大豆」の体験や「ローカルガストロノミー」の話題へ。

「ローカルガストロノミー」というと、「地域の風土や歴史、文化、農業の営みなどを料理で表現すること」、「地域と一体化した取り組み」、「サステナブルな食」といった意味で使われている言葉です。先刻のように「あけぼの大豆」を旬の時期に産地で食べるということは、まさにローカルガストロノミーな体験。

食を取りまく問題は今でも起こっていますが、このままいくと2050年頃には世界は食糧不足に陥るといわれています。その問題解決につながる一つの方法として、長内氏の講演で提起されたが「ローカルガストロノミー」。

「ローカルガストロノミー」を取り入れた食の選択は、生産者の生活や農作物の種を守り、未来の持続的な食を守ることにつながります。同時にその土地で旬の物を食べることには喜びがあり、その地域のストーリーとともに味わうことでより深くおいしさをかみしめられます。

普段の食卓にも地域の食材を積極的に使うなど「ローカルガストロノミー」を意識することで、豊かな気持ちで食を楽しめるとともに、食の未来を守ることにもつながるということが伝わる講演となりました。

地球規模の食の問題を自分事として考えることは、普段はなかなかないかもしれませんが、参加者の方々は楽しい思い出とともに、食の未来にも少し思いをはせてちょっとした日常の行動を変えてみようと思った機会になったのではないでしょうか。

湯葉料理の身延山らしい夕べ

夕食は宿坊らしく精進料理で、身延町特産の湯葉を堪能できるメニューでした。湯葉が町の特産になったのは、実は身延山と関連があります。肉や魚を食べない僧侶たちにとって大豆から作られる湯葉は貴重なタンパク源。日蓮聖人の弟子たちが、師の体を気遣って湯葉を作り始めたといわれています。

夕食の時間では仏教音楽の雅楽の生演奏や、お囃子と纏(まとい)のパフォーマンスによる日蓮宗のお祭り体験も行われました。さらに、今回はジャズの生演奏もあり特に盛り上がった夕べでした。

身延のストーリーを知ってもっとおいしい食体験を

身延山ローカルガストロノミーツアー第4回目の内容を紹介してきました。今後も豊かな食体験とともに、文化や伝統、気候風土など、地域をさまざまな角度から味わえるローカルガストロノミーツアーを開催していきます。ぜひご期待ください。